3歳までのお子さんのいるママ・パパ、年金の「養育特例制度」をご存知でしょうか?
育児のための時短勤務で給与が下がると、それによって社会保険料も下がります。
毎月の社会保険料が安くなるのは嬉しいことですが‥
一方で将来もらえる年金額が減ってしまうというデメリットも。
そこで、社会保険料が下がった場合でも、将来の年金額をキープしてくれる制度が「養育特例制度」です。
実はこの制度、会社の申請義務はないため、自分から会社に手続きをお願いする必要があります。
もう仕事復帰したけど、制度を知らずに申請していなかった‥
という場合も大丈夫!
子どもが3歳を過ぎていても、2年間は遡って申請することができます。
この記事では、産休・育休手続きの実務を担当していたわたしが
- 養育特例制度について
- 対象となる期間・対象者
- 申請の方法・申請書の書き方
- 申請が遅れた場合
- 退職・転職した場合の手続き
- 養育特例制度を利用するデメリット
について、わかりやすく解説します。
養育特例制度とは?
「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
正式名称は、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」。
育児のための時短勤務で給与が下がると、それに伴って社会保険料も下がります。
毎月の社会保険料が安くなると、給与から引かれる金額が減るので嬉しいですよね。
一方で、将来もらえる年金額は、支払った社会保険料の金額によって決定されます。
「社会保険料が減る=将来もらえる年金額が減ってしまう」ということ。
わたしたち世代だと、ただでさえあまり期待できない年金。少しでも減るのは避けたいですよね。
「養育特例」は、
具体的には?わかりやすく言うと‥
たとえば、子どもが生まれる前に月給20万円で働いていた人の場合。
育休復帰後は時短勤務により月給15万円になるとします。
給与が5万円下がると、社会保険料もそれに合わせて安くなります。
ですが、養育特例制度を利用すると、「月給20万円のときに払っていた額の保険料を払っている」とみなしてもらえます。
「みなす」というだけで、差額がいつか徴収されるわけでも、会社が払うわけでもありません。
メリットしかない制度なので、積極的に利用しましょう!
対象となる期間はいつからいつまで?
養育特例の対象となる期間はいつから?
もともとは実子だけが対象でしたが、平成29年1月1日より養子も対象となりました。
養子の場合は、「養子になった日」から養育特例の対象となります。
いつまで適用される?
年金事務所のホームページに書かれているのは、
「3歳到達日の翌日の月の前月まで。」
わ、わかりにくい‥
なんでこんなにわかりにくい書き方をするのか疑問ですが‥
「3歳到達日」とは、3歳の誕生日の前日のこと。
つまり、「3歳到達日の翌日」は3歳の誕生日。
「3歳到達日の翌日の月」は誕生月。
その前月なので、
法律系の文章でよく出てくる「◯歳到達日」は、誕生日ではなく「誕生日の前日」のことです。
知っているとどこかで役に立つかも?
離婚などで養育しなくなった場合も終了
離婚などの理由で、子どもを養育しなくなった場合も養育特例は終了します。
養育特例の対象になるのはどんな人?
代表的なのは時短勤務になった場合
「育休から時短勤務で復帰する場合は養育特例の申請を」
と聞いたことがある方はいるのではないでしょうか?
「勤務時間短縮等の措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合」
と書かれているため、時短の場合のみが対象になると思われがち。
ですが、実は時短以外の場合でも養育特例の対象になる場合があります!
フルタイムで復帰する場合・男性の場合も
あまり知られていませんが、養育特例は
時短勤務をする場合だけでなく、
- フルタイムで復帰するけれど残業を無くして給与が下がったママ
- 育休は取っていないけれど残業を減らして給与が下がったパパ
- 会社の近くに引っ越して交通費が安くなった
という方も対象です。
利用して損はない制度なので、忘れずに申請しておきましょう!
詳しくはこちらに
養育特例制度を利用するには?
本人から会社への申し出が必要
産休・育休を取る従業員が多く、慣れている会社では、会社からアナウンスしてくれる場合も。
そうでない場合は自分から会社に申し出なければなりません。
とくに男性が制度を利用できることを知らない会社は多そうです。自分から会社に申し出を!
手続きの流れは?
まずは本人が会社に申し出。
会社から年金事務所に書類を提出し、手続きを進めてもらうことになります。
申し出するときに、必要な書類を提出するとスムーズです。
- 厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書
- 添付書類
書類については、あとでくわしくご説明します。
年金事務所で処理されて、養育特例が適用されます。
申出書の書き方は?1項目ずつ解説!
会社に申し出するとき、本人記入欄を先に埋めて提出するとスムーズです。
初めて見る方は、見慣れない単語も多く、書き方が難しいと思うので解説していきます!
本人記入欄はこちら
記入する必要があるのは、青線で囲んだ部分です。
申出者欄
自分の住所・氏名を記入します。
右上の日付は、会社にこの用紙を提出する日にちを記入します。
共通記載欄
- 1:被保険者整理番号
-
見慣れない言葉ですが、健康保険証に書かれている番号です。
氏名が書かれている上に、「記号 XXXXXX 番号 XXXX」という数字があるはず。
「番号」の後ろにある数字が「被保険者整理番号」です。
ちなみに‥「記号」は会社ごとに決められた番号、「番号」は個人ごとに付けられた番号です。
- 2:被保険者個人番号 (基礎年金番号)
-
マイナンバーを記入します。
マイナンバーがわからない場合は年金番号でもOK。
※親子ともにマイナンバーを書けば添付書類の一部(住民票)を省略できます。
- 3:被保険者氏名
-
自分の氏名を記入します。
- 4:被保険者生年月日
-
自分の生年月日を記入します。
- 5:被保険者性別
-
自分の性別に◯を付けます。
- 6:養育する子の氏名
-
子どもの氏名を記入します。
- 7:養育する子の生年月日
-
子どもの生年月日を記入します。
- 8:養育する子の個人番号
-
まだ分かっていない場合は空欄でも大丈夫です。
出生届を出してから1ヶ月もすればマイナンバーが決定するので、マイナンバーが分かってからの提出でも十分間に合います。
※親子ともにマイナンバーを書けば添付書類の一部(住民票)を省略できます。
A.申出
- 9:過去の申出の確認
-
今回申請する3歳未満の子について、以前も養育特例制度を利用したことがある場合は「いいえ」に◯を。
「第1子のときに制度を利用し、今回は第2子が生まれたのでまた利用する」という場合は「はい」に。
- 10:事業所の確認
-
養育開始の前月(※)に働いていた会社と、現在働いている会社が違う場合は「いいえ」に◯を。
※:子どもが生まれた月の前月
- 11:該当月に勤務していた事業所
-
「10:事業所の確認」で「いいえ」を選択した場合のみ記入します。
会社の住所と名称を記入しましょう。
- 12:養育開始年月日
-
子どもを養育し始めた年月日(=子どもの誕生日)を記入。
- 13:養育特例開始年月日
-
育休を取っていた場合は、復帰した日(=育休終了日の翌日)を記入します。
育休を取らなかいパパが申請する場合は、この欄も子どもが生まれた日でOKです。
- 14:備考
-
空欄でOK。
終了の申し出は特別な場合のみ
子どもが3歳になると、養育特例の適用は自動的に終了します。
申出書「B.終了」欄に記入して終了の申し出をする必要があるのは
- 離婚などで子どもを養育しなくなった
- 子どもが亡くなった
という特別な場合のみです。
養育特例申出書の添付書類は?
添付書類は戸籍謄本と住民票
①戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書
申出者と子どもの身分関係・子どもの生年月日を確認するために必要です。
年金事務所へ提出するための戸籍謄(抄)本は無料で発行してもらえます。(自治体にご確認ください。)
②住民票の写し
申出者と子どもが同居していることを確認するために必要です。
提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものを添付してください。
どちらもコピーの提出は不可
どちらの書類もコピーの提出は不可です。
市役所で発行した原本を提出しましょう。
申出書の提出期限はある?
時効は2年
養育特例制度の時効は2年間。
申出書の提出期限は決まっていませんが、2年をすぎると時効により申請ができなくなってしまいます。
遡及して申請もできる
会社から教えてもらえず、養育特例制度を知らなかった‥
という場合、あとから申請することもできます!
時効が2年間ということは、遅れて申請した場合も
たとえば、
- 子どもが3歳になった月に申請
-
2年間さかのぼり、1歳〜3歳までの2年間について適用
- 子どもが4歳になった月に申請
-
2年間さかのぼり、2歳〜養育特例終了の3歳まで、1年間について適用
どのタイミングで申請しても、養育特例の期間は3歳で終了します。
期間内に退職・転職した場合は?
退職後の申請は自分で年金事務所に提出
その場合は、自分で用紙を記入し、年金事務所に持参するか郵送で提出します。
申出書の「提出者記入欄」(会社が記入する部分)は 空欄のままで大丈夫です。
マイナンバーカードが必要
退職後に、会社を経由せずに自分で提出する場合はマイナンバーカードが必要です。
マイナンバーカードを作っていない場合は、下記の2点でもOK。
- マイナンバーが確認できる書類(個人番号の表示がある住民票の写し、通知カード)
- 身元確認書類 (運転免許証、パスポート、在留カードなど)
郵送で提出する場合は、
- マイナンバーカードの両面のコピー
または - マイナンバーが確認できる書類と身元確認書類のコピー
を同封して提出します。
転職後は新しい会社から再度申し出が必要
新たに申出書に記入し、会社に年金事務所への提出をお願いしましょう。
養育特例が適用されるタイミングは?
社会保険料が下がったとき
給与が減っても、すぐに社会保険料が下がるわけではありません。
社会保険料が変わるタイミングは3種類
①毎年の定時改定
社会保険料は年に1回、金額が見直されています。
「4〜6月に残業すると損!」と聞いたことがある方もいるのでは?
毎年の決定では、残業代などの「変動給(=月によって変わる金額)」も含めて計算されます。
②固定給が減ってから4ヶ月後
基本は毎年の改定ですが‥
これは「固定給(=毎月決まって支払われる金額)」が下がった(or上がった)場合のみ。
※ここでの固定給には、交通費も含みます。
「固定給は変わらないけど、残業をしなくなって給与が下がった」という場合、①の毎年の改定時期まで社会保険料はそのままです。
給与額が変わってから3ヶ月間の金額をもとに、4ヶ月目からの保険料が決定されます。
③育休から復帰してから4ヶ月後
②では「固定給が下がった場合」のみが対象でしたが、育休復帰時は特別ルールが。
「以前は残業していたけれど、しなくなって残業代が無くなった」場合なども対象に。
育休復帰から3ヶ月間の金額をもとに、4ヶ月目からの保険料が決定されます。
養育特例制度の利用にデメリットはある?
デメリットはとくにないので必ず申し出を!
「将来の年金額が減るのを防げる」というメリットの反面、デメリットもあるのでは?
と心配される方もいるかと思いますが、デメリットはとくにありません。
強いていうなら、書類の準備が面倒なことくらい。
少しの手間で将来もらえるお金が大きく変わってくるので、面倒がらずに手続きをしておきましょう。
会社の負担もないので遠慮は不要
年金事務所への書類提出の手間は少しかかりますが、会社側もお金の負担はなし。
会社からのアナウンスがない場合も、遠慮せずに手続きをお願いしましょう。
養育特例制度まとめ
養育特例制度 | 育児により社会保険料が下がった場合でも、 将来の年金額をキープしてくれる制度 |
対象となる期間 | 子どもが生まれた月 〜3歳の誕生日の前月まで |
対象となる人 | 3歳未満の子どもがいて給与が減った人 |
必要な手続き | 会社への申し出 →会社から年金事務所に書類提出 (退職後の場合は自分で申請) |
提出期限 | 時効は2年間 遡って申請もできる |
デメリットは? | とくになし |
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